GF001のコンセプトノート

店舗内装デザインを手がけるグリッドフレーム001の視点

フェズの迷宮にて

物に頼ってきたために、私たちはコミュニケーションを失ってきたのではないか?

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モロッコのフェズは旧市街の迷宮で有名な町だ。

迷路のような町を歩くのはどきどきする。狭い道を選んでどんどん奥へ入り込んでいく。目的は、迷子になること。

たどり着いた公園で一休みしていると、ベンチに座っている私に、20歳くらいの女の子二人が話しかけてきた。一人は車椅子に乗り、一人はそれを押している。きっと東洋人が珍しかったのだろう。

その後、旧市街のメイン通りを3人で歩いた。私が車椅子を押した。石畳の通りには、ところどころに段差がある。そのたびに車椅子をストップすると、周囲の通行人2~3人がさっと寄ってきて、車椅子を持ち上げてくれて、段差を越える。まるで、町の全員が家族であるかのように、その行為がさりげない。

美しい風景だった。

 

その頃、私はアメリカに住んでいたが、どんなに小さな店にも、車椅子用の通路が義務付けられていた。それは、ひとつの思いやりのかたちかも知れないが、1日に数人しか客が出入りをしない、人里離れた小さなオフィスにもそれが付いているのはどう考えてもやりすぎだと思っていた。車椅子をみんなで持ち上げればいいことじゃないか。

そのように物に頼ってきたために、私たちはコミュニケーションを失ってきたのではないか?

 

出会った記念に、と、もうすぐ生まれる親戚の赤ちゃんのために編んでいた小さな靴下の片方を、私にプレゼントしてくれた。

フェズは人の温度がほんわりとあたたかい町として私の記憶に残っている。

001@gridframe • 2015年9月7日


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