REW
機器がデジタルになって欠けているのは、無意識の中の経験であるかもしれない。
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「REW」という表記を見なくなって久しい。
これは、カセットテーププレイヤーの「巻き戻し」のボタンに表記されていたrewindingの略だ。
今となっては、アナログを象徴する表記にも見える。
音や映像の信号を数値化することなく記録する場合、それをアナログというらしい。
レコードは溝の深さで、カセットテープは磁気の強さで信号を記録する。
その記録は連続的で、ぼくは高校時代の数学の曲線グラフを思い浮かべる。
カセットテープは二つの回転軸があり、聴いているときは右の軸に巻かれたテープを左の軸が巻き取っていく仕組みになっている。
左の軸に巻かれた直径は、過去に費やした時間を表し、右の軸に巻かれた直径は、未来の残りの時間を表す。
音楽を聴きながら、なんとなくさびしい気持ちで巻き取られていく様子を眺めていたのを思い出す。
機器がデジタルになって欠けているのは、そのような無意識の中の経験であるかもしれない。
「REW」ボタンを押す。もう一度、それを聴こうとして、少し前の過去へ移動する。それまで、少しの間、待たなければならない。
そういえば、待つということが今より全然平気だったあの頃。
ぼくはいつの間にか、時間を巻き戻している。
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