「創造性の連鎖」の実践 1
「創造性の連鎖」は、グリッドフレームが考案して、空間づくりに実施している、チームで何かを創造的につくる場合の方法です。きっと空間づくり以外でも応用できるのではないか、と思います。
その目的は、空間をチームでつくっていく場合に、最もよい空間をつくることですが、それ以外にもたくさんよいことがあります。それは、読んでいるうちに、明らかになると思います。
「創造性の連鎖」の基本的な特徴は、プロジェクトの進行とともに、基本設計者から、詳細設計者・現場監督・制作スタッフと担当者が変わっていく中で、プロジェクトに参加するチームの構成員全員が自分の頭で考えてものづくりを行う、ということです。上流で提案した内容を、引き継いで実行する人が変更することができる。一般的な、ひとりの設計統括者だけが考えて他の多くの人々を従えてつくられる、という方法の中では、このような変更はネガティブなものと見做されがちですが、「よりよくしたい」という気持ちを全員が共有している場合、この変更はむしろポジティブなものとして推奨してもよいと考えたのです。
ただし、変更には条件がつきます。引き継いだ内容の20%まで、というものです。変更が過ぎると、もはや上流の人の創造性の痕跡が消えてしまい、連鎖の意味が薄れるからです。もちろん、20%を正確に測ることはできませんから、感覚で十分です。
先に、「最もよい空間」と書きましたが、これはグリッドフレームが思う最もよい空間であって、その基準は人それぞれ、だと思います。だから、まず、私たちがどのような空間をよい空間だと思っているか、について、知っていただく必要があります。
ひとことでいえば、それは自然の空間です。フェニキア人は夜の地中海を航海するために、無秩序に散らばっているかのような夜空の星から法則性を見い出しました。人間は自然と向き合うことで、知を獲得し続けて、現在の文明を築き上げたのです。
自然の空間のように、何かを発見できる空間。私たちがめざすよい空間とは、一見なんでもない空間かもしれませんが、よく見ることで何かが見えてくるような多様性に満ちた空間です。
これから後は、わかりやすさのために、店舗空間づくりについて書きたいと思います。
まず、店舗をつくる場合は、どのような自然をめざしたらよいでしょうか。
当然のことながら、人間も自然の一部です。そして、その心もまた自然の一部で、多様性に満ちています。
私たちは、店舗づくりにおいて、クライアントの心を表現する空間を実現することをひとつの大きな目標としています。クライアントの構想のみならず、もっと奥深くにある心を表現することで、店舗は人格を持つのではないでしょうか。
そのようなお店でなければ、どうやら長く続くお店にはならないようです。カタログから建売的につくられるようなお店が多い中、多くの店舗はつくられては壊され、というサイクルを繰り返しているように見えます。もちろん、お金をかければよいお店ができるわけでもありません。うまくいかないお店にはどれも、クライアントの心が表れていないように思います。
では、実際に、どのようにプロセスで「創造性の連鎖」を実践しているのか、を説明します。
「創造性の連鎖」では、まるでリレーのように、バトンが受け渡されます。誰から、誰にバトンは受け渡されるのか。それには、つぎのような種類があります。
1.クライアントから基本設計者へ
2.基本設計者から詳細設計者・現場監督・制作スタッフへ
3.詳細設計者・現場監督・制作スタッフの間で
(つづく)
→自社ファクトリーでつくる店舗デザイン空間/グリッドフレーム