砂漠の少年
サハラ砂漠の北限は、少年の家の庭まで迫っていた。
数年前まではオリーブの木がたくさん生えていたそうだが、そのときにはもう緑は数えるほどしか残っていなかった。
近くに流れていた水路は涸れ果てて、彼らの生活は砂漠に押し流されてしまおうとしていた。
少年はぼくに貝殻をくれた。海を見たことがないという彼にとって、それは宝物に違いなかった。
彼はそれを耳に当てると、「波の音が聴こえる」と言って微笑んだ。
そのときの彼の遠い眼差しをぼくはずっと憶えている。
あれから20年が過ぎた。
少年とその家族はもうあの家にはいないだろう。今頃、どこでどのような暮らしをしているだろうか。
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