ケインズの美人投票
人間対人間を重視する店舗では、モダンな方法、つまり、「創造性」「自発性」重視の店舗づくりが有効なのである。
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柄谷行人『批評とポストモダン』の中に、次のような内容の部分がある。(一部は本文をそのまま抜粋)
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経済学者ケインズは、金融市場の原理を美人投票を例に説明している。
それは、みんなが美人だと思う人の名前を書き、それを集計して美人として票が最も多く集まった人に投票した者に賞金を与えるという観衆参加型の投票である。
第一は、美のイデアを体現している者の名を書くこと。
第二は、自分が美人だと思う者の名を書くこと。
第三は、まず平均的な人が誰を美人と思うかを予想し、
さらに平均的な人が誰を美人と思うかを
平均的な人はどう予想するかを予想し、
さらにまた・・・
この美人投票に勝つためには、第一、第二の方法では不可能である。ケインズは金融市場の原理を、第三のケースで説明した。
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上の3つの方法は、つくることにもそのまま当てはまる。例えば、「美しい空間をつくろうとするとき」には、次の3つの段階がある。
第一は、美のイデアを体現している空間をつくること。
第二は、自分が美しいと思う空間をつくること。
第三は、まず平均的な人がどのような空間を美しいと思うかを予想し、
さらに平均的な人がどのような空間を美しいと思うかを
平均的な人はどう予想するかを予想し、
さらにまた・・・
ふつう、繁盛する店舗をつくるために、市場の原理に従って会社を運営していくならば、第三の方法で設計することが理想、という考えをとる内装会社は多いだろう。
だから、広告会社のように流行の推移に対して敏感に反応して、内装をつくっていく会社が多い。結果として、広告のような店ができあがる。
では、ぼくたちグリッドフレームはどのような方法でつくっているだろうか?
ぼくたちは、第二の方法、自分が美しいと思う空間をつくろうとしている。自分たちがよいと思えない空間はつくらない。
第一の方法はプレモダン、第二の方法はモダン、第三の方法はポストモダンに対応している。
歴史的には、プレモダン→モダン→ポストモダンと時代は移り変わっていった。モダンが廃れた理由はなんだったろう。
資本主義社会が発達し、企業のシステム化が進むと共に、ほぼ全ての国民が、企業が供給する商品を享受できる消費社会へと移行したとき、個人の内面的(モダンな)原理よりも、企業体の組織原理が社会の原動力になったからである。
しかし、個人や小さな企業が経営する店舗は、消費社会にありながらも、個々人の内面的原理が原動力になる。システム以上に、人間対人間を重視する店舗では、モダンな方法、つまり、「創造性」「自発性」重視の店舗づくりが有効なのである。消費社会の波に直接さらされない岩の淵で、第二の方法は息を潜めて生き延びてきただろう。
消費社会になって、日本は45年が過ぎ、現在は、ポスト消費社会と呼ばれている。平穏無事に生きていくための方程式はすでにない。求められるのは、再び「創造力」である。
もう「平均的な」人でいたい、と思う人間は少ないだろう。いや、いたい、いたくないに関わらず、それでは生存が危うい。
ぼくたちはたぶんそんなところにいる。