タンザニア
楽に旅ができるということは幸せなことかもしれないが、ぼくは観光地が整備されたケニア南部よりも、その南隣の、見るべきところは勝手に探して、という感じのタンザニアの方が好きだ。
とはいっても、もう30年近く前のことだ。今はどうなっているか、わからない。
1985年。タンザニアは経済的に困窮していただろう。自国通貨はブラックマーケットで20%の価値で売買され国外へ流出し、外国人は国外からそれを持ち込んで、自国に外貨が落とされることはなかった。
国は対策として新札を発行。一週間で旧札は使用不可にした。旧札を新札に交換するために銀行の前で長蛇の列をつくるタンザニア国民はかわいそうだった。
その一方でタンザニアにはゆったりとした時間が流れていて、出会った人たちの興味はぼくが持っているお金ではなく、ぼく自身に向かっているように感じられることがとても幸せだった。ぼくは今でもタンザニアで出会った人々のことを懐かしく思い出す。(懐かしさや思い出とはそういうものだろう)
だが、それはぼくが彼らの生活となんら関わりを持たない遠い国から彼らを見つめているからだ、ということをぼくは知っている。彼らはぼくの中の風景画に存在する清く美しい人々なのだ。
以後、タンザニアの経済は復興を遂げたらしい。次にぼくがタンザニアを訪れるときがあるならば、個々の人々をしっかりと見つめたい。
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