宗教
ぼくは父方の祖母が宗教に入信した背景をそれほど明確に知るわけではない。
祖父が政治家を志したから、家業である農業は祖母が一手に引き受けた。4人の男の子を育てるため、毎日を農作業に明け暮れた、と聞く。
そうやって、農地を増やしていったが、1947年の農地改革でそのほとんどをごっそり奪われてしまった。
その後、リウマチを発症して、自由に動けない体になる。
ぼくが知っている祖母は、父の実家へ行くといつもベッドにいて、ぼくがお腹が痛いときに「ご浄礼」といって曲がった手をお腹にかざしてくれる人だ。祖母の手から伝わる暖かさを憶えている。
ぼくが知っているのはたったそれだけのことだが、この世に対する無情観がなければ入信することはなかっただろう、と想像する。
「民衆の間に宗教が強いなら、それはその社会に欠陥があるからです。」と柄谷行人は言っている。
農地改革は歴史の上では成功した政策だといわれているし、その意味はぼくもよく分かっている。
もとより、祖母がそれについて嘆いていたわけでもない。
ぼくが知っているのは、祖母の静かでやさしい眼差しだけだ。
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